大好きなカフェがあった。
席数はそんなに多くない。営業は週に4日。いつも同じ二人の店員さん。
1つ1つこだわり抜いて選ばれたであろう家具に、静かに流れる北欧の音楽。
お店の横で育てたグリーンがささやかに飾られた店内。
丁寧にいれられたお茶や手作りのスイーツ。
トイレには洗濯されてふかふかのハンドタオルが並べられ、店内で思い思いにゆったりと過ごすお客さんたち。
そこにいるだけで、丁寧さや豊かさを感じられる。
そんな場所だった。
社会人になった時から休日はそのカフェで本を読んだり、仕事の振り返りやプランニングをしたりするのが、楽しみだった。そこにいるだけで忙しい毎日からちょっと離れて一息つける、私にとって1週間の中でとても大切で大好きな時間。
夫と過ごす休日は、たいがいこのカフェでおしゃべりしたり各々本を読んだり、私たちのデート先でもあった。
妊娠がわかって引っ越しをする時に、前の家の近く、そのカフェに通える距離の家を選んだことも決定打まではいかないけれど、ここならこれからもあのカフェ通えるねと夫婦で話した。
メインの道から一本入った隠れ家的な雰囲気で、来るのはカフェ巡りが好きな人たちか常連さん。
こじんまりとしているけれど、店員さんとお客さんは、そっと目を合わせて注文をするような親密さがありながら、土足でずかずか入るわけではない、絶妙な距離感があった。
そんな大好きなカフェに、年明け始めて行った。
あれ?いつもチョークで営業日カレンダーが書かれている黒板が見当たらない。
でも遠目で見ると入り口に貼り紙もなさそうで入り口まで進む。
もうこの時点で、なにかいつもと違うことは感じていたのだと思う。でも、信じたくない気持ちで中をそっと覗いてみると真っ暗。どこをどう探してみても、営業している気配はなく、どこを探してもお知らせ的なものもない。
もうお店が終わってしまったと確かめる勇気がないまま、週末1人時間ができるとたいして好きでもない近場のチェーンのカフェで、最後まで飲めないコーヒーを買って過ごしている。
楽しみな1人時間が、変わってしまった。
大好きだったあのカフェはどうなっているだろう。なんでもなく再開していたりするのだろうか。そうあってほしいと思いながら、私はまだ確かめに行けずにいる。